Suga Toshiaki Gallery
菅俊明 ギャラリー
写真と詩のページです。
昔からカメラはいつも携帯していて、ちょっといいなと思うものがあると撮影していました。最近はスマホがあるので便利です。
詩は、少し前に書いたものがほとんどですが、何か心に感じたことがあると、メモするように書いています。
私が好きな詩は、俳句や漢詩の五言絶句やビートルズなどで、正直言って、長い詩は読み切るだけの忍耐がありません。だから、ここにあるのは短くて平易なものばかりです。
※写真と詩を交互に並べていますが、特に関連はありません。
※詩を追加したら、末尾に配置します。写真は時々入れ替えます。詩も時々書き直します。

京都 美山
薄暮の
ビルの谷間の向こうに
青空が見えて
そこまで行けば
海が見えるような
気がした
海が見えたら
1984..06.09

そんなときは
エンジンの音もかすかに遠く
耳に入るのは
風の音と
ヘルメットにぶつかる雨滴の
ボツボツという音と
ときおりシャーッと跳ね上がる
水しぶきの音だけだ
腕はクラッチを操作する部品となり
脚はミッションをチェンジする部品となり
脳は転がり続ける機械をコントロールする制御中枢となる
エンジンの音もかすかな そんな夜は
そうやって
何時間も何時間も
単調な音の混合物に頭を満たされて
濡れたシールド越しに
最悪の視界の中で
先行車のテールランプを頼りに
走り続ける
雨の夜は
1983.04.12

五か所湾
SUZUKI GSX400F
ケーキがはこばれてくると
女の子は
無邪気にうれしそうな顔をした
母親が
自分のケーキも食べていいと言うと
もっとうれしそうに
何ともいえないしぐさをした
ある晴れた日
1982.11.23

横浜 港南台駅
電車がひと駅すぎるあいだに
窓から見える景色は
明るすぎて
とろとろとスローモーションで
流れていった
街は昔と変わらず
人々は昔と変わらず
笑いさざめいて
ぼくはその中に
とけていった
歩きながら
時間は静かに逆流し
狭い小路は眩しくて
ぼくは子供たちの中に
ゆらゆらと
とけていった
暖かい風が吹いて
とろとろにとけたぼくと
とろとろと逆流していく時間のおもてに
波紋を描いた
Time Tide
1983.03.03

堺市 浜寺公園駅
突然 風が吹いて
顔をなで
記憶のページをめくった
はるかな景色が浮かんで
はっとしたとき
もう
風はやんでいた
地下街にて
1982.11.17

横浜 野庭
目が覚めてカーテンを引くと
グランウンドの向こうに
国道が見えた
音もなく自動車が左から右へ
ベッドから降りて顔を洗い
ジャンパーを着て
ブーツを履いた
砂利の上をザクザクと歩き
ヘルメットをかぶると
バイクにまたがった
イグニッションキーを回し
スタータを押し
チェンジペダルを踏み込み
クラッチを放して
ゆっくりと発進
国道の上には
右にも左にも車はなく
アスファルトの上にのると
車体を右に傾け
スロットルを開いた
いつもだったら
まだ眠っている時間
やけにいい天気だった
国道141号線
1983.03.30

横浜 野庭
あれはもう いつの日のことだったか
よく晴れた日で
河辺の神社に立って
あのときは
何を考えていたんだか
よく晴れた日で
ぼくはぼんやり
いつだったか気持ちのいい日
1982.12,18

横 浜 日野南
彼女は
そのとき おなかに子供がいて
コートをはおると
角の店まで
スパゲッティを食べに
出かけた
街には雨が降り
ほの寒い日で
店の隅に空いたテーブルを見つけると
腰を落ちつけた
おいてあった新聞に目をとおし
黙ってスパゲッティを口にはこび
向かいの男には目もくれなかった
食べおわると
新聞をたたみ
コートをはおり
レジで勘定をすませ
雨の中へ
出て行った
角をふたつみっつ曲がると
彼女のマンションで
階段をのぼって
鍵を開けると
部屋は
薄暗かった
木曜日の昼食
1983,03,10

飛行機雲
年が変わり
正月のレストラン
それぞれに
晴れ晴れとした顔をして
さざめきあい
この日のために
一年を過ごしてきたかのよう
ティーカップやスプーンが
カチャ カチ チン
正月のレストラン
1997.01.04

茨木市 丸またの橋
窓の外
どこか遠くで
小さな女の子の
「おにいちゃん」と呼ぶ声が聞こえる
いつだったか昔
そんなふうに呼ばれたことが
あったはずと
ほとんど消えてしまっている
記憶の中を
たどってみる
呼ぶ声
2006.01.05

横浜 鍛冶ヶ谷
かがみこんで栓をひねると
ジャージャーと
水たまりの中に
水
ベンチには男が一人
陽射しの中に座って
知らん顔をしている
水を口に含み
吐き出して
立ち去る
秋
1970.09.20

交野市 天田神社
それで
・・・・・
そいつはなるようになる
泣いてたって 笑ってたって
怒ってたって 楽しんでたって
おなじようなもの
一日がすぎて 一日がすぎて
一日がすぎて・・・・・・・
その繰り返し
何かが気になって
体の中を流れてる血が
腹の中にどす黒くたまってたって
別にかまいやしないけど
ぐるぐるぐるぐる血が流れてるって
そいつがよくわかったときには
それだけでも
幸せってもんだ
生きてるってこと
1977.01.29

横浜 元大橋
ぼくたちは
まるで幻のよう
感じることも思うことも
ゆらめく波の
物理反応
いのちは
はるかな宇宙のはじまりの
ほのかな残り火
ほのおのように
1982.10.27

茨木市
中年もほとんど過ぎた女が
混雑した電気屋で
ラジカセの箱をぶら下げて
店員に何か尋ねていた
悲しくなるほど滑稽で真剣な顔をして
ほとんど要領を得ない様子で
店員は困り果てていた
女は繰り返し何かを尋ねていた
ひとり浮きあがって緊張して
僕は悲しくなって
何度も何度も
そちらを見ずには
いられなかった
電気屋で
1984.03.25

横浜 日野
今日は日が高く昇ってから起きたので
食事してから
レコードを聴きながら
何となく新聞を眺めていると
もう夜で
またすぐ
寝なくてはいけない
ある日
1971.03.23

横浜 野庭
目が覚めると
台所から
コトコトと
包丁の音
おはようと言うと
おはようと
声がして
また
コトコトと
包丁の音
家族
2009.08.26

横浜 日野南
アスファルトを見つめながら
汗だくで
歩いて歩いて
顔を上げたら
入道雲が
赤かった
夕焼け
2016.07.19

横浜 野庭
コーヒーを置いて
タバコに火をつけて
ふっと煙を吐いたとき
向かいの席にきみがいるような
気がした
窓の外には
緑の葉に隠れて
赤いスクーター
コーヒーを
また一口
飲んだ
大学前の喫茶店
1982.11.21
立ち去るときはいつだって
これっきりかもしれないと思う
そんな気がして
すばやくその場を
頭の中に焼き付けてみても
いつのまにか
形が崩れた映像と
言葉の切れ端が
残っているだけだ
思い出は
頭の中のオンボロ映画
いつか思い出して映してみても
そこにはぼんやりとした影しか
映っていない
立ち去るときはいつだって
これっきりかもしれないと思う
思い出はオンボロ映画
1972.04.05

軽井沢
夢の中で
妻が寂しそうな目をして
ごめんねと言った
ぼくの不機嫌の原因が
自分にあると思ったみたいに
そうじゃないのだけど
目が覚めると
まだ暗くて
頭の中で
妻の声が
聞こえた
小さくつぶやくように
その声を
何度も頭の中で
くりかえしてみた
パパ・・・
夢の中で
2007.11.06

箕面
電車の中で
眠りこけている
この爺さんが
まだ幼くて
若い両親に挟まれて
なんだかうれしそうに
はしゃいでいたことも
きっと
そんな昔の夢を見ることも
ときには
あるのだろうか
この爺さんが
電車の中で
2007.02.19

横浜 朝比奈町
目が覚めてみると なんだか
すべての努力が
報われそうもない気がした
捨てるものとて何もなく
気をまぎらわすものとて何もなく
時間ばかりが過ぎて
こんなときはどうしたらいいんだか
夢をみるのもいやになる
あしたは・・・
今日のつづき
だけど だからといって
今日と同じだなんて・・・
夢をみるのもいやだけど
明日も今日と同じだなんて
それはない
明日の天気予報は
曇りのち晴れ
報われない努力だって
やめるわけにはいかない
9月の土曜日
1982.09.25

横浜 日野
もっと もっと もっと
いろんなことをしたかった
父と母と妻と子と・・・
もっと もっと もっと
いろんなことをしてあげたかった
父に母に妻に子に・・・
やろうと思えばできたはずなのに
やらずにすんでしまったことが
とても多くて
時間だけは
おかまいなしに
どんどん過ぎていく
あやまりたいことも
山ほどあるのに
もっと もっと もっと
2005.5.27

大阪市 木川西
小さな子供は別として
みんながみんなわかってる
だけどそんなこと
気にならないみたいな顔をして
毎日あくせく
毎日 楽しみ
毎日 苦しみ
毎日 悲しみ
あくせく あくせく
そして気がついたら
もう終点みたいな
わかりきっていても気にしない
気にしたって仕方がない
人間って素晴らしい
人間って素晴らしい
人間って素晴らしい
2010.06.11
a_R.jpg)
東京 木場あたり
真っ暗な海岸
ずっと遠くの沖を
ばからしいほどにぎやかな灯が通っていく
水平線を右のほうへゆっくり
波の音の向こうでは多分
酒盛りの声が聞こえる
腹のでかい船主が
盃片手に大笑いしているか
精悍な船長が上機嫌で
みんなを見わたしているか
海原を横切って
シンドバッドの船のように
航海者たちは宝を求めて進んでいく
真っ暗な海岸に突っ立って
にぎやかな灯が
沖を過ぎていくのを
じっと眺めて
船が島陰に隠れると
ぽつりぽつり
暗い道を戻った
夜の海辺で(新島にて)
1971.07.21~24

横須賀 猿島沖
こんなに元気に
かわいい声を張り上げて
歌ってる女の子が
もうはや年老いて
この世にはいない
空は青く
木々は茂り
鳥はさえずり
地球はちっとも
変わっていない
それなのに
こんなに元気に
歌ってる女の子が
もうこの世にはいない
あっという間に
充分過ぎる時間が過ぎて
宇宙は回り続け
僕たちは
すっかり変わってしまい
頭の中で
女の子の歌が
グルグル回り続けている
フランス-ギャルのBaby-Popを聞いて
2019.07.26

京都 大原
こうやって
田んぼの中の空き地に立って
砂ぼこりと
黄色いブルドーザーと
赤い夕陽
風の音が耳にまとわりつき
馬鹿みたいに子供っぽかった昔のことが
頭の中にまとわりつき
だけどきっと
今でもそんなに賢いわけでもないから
いまさら
どうしようもなく
こうやって
風の音が耳にまとわりつき
砂ぼこりが体にまとわりつき
平野のど真ん中
黄色いブルドーザーと
沈みかけている夕陽
すぎたことは
すぎたことさ
平野のど真ん中で
1973-08-11

伊豆 松崎港
くやしいとか
うらやましいとか
そんなきもちとは
おさらばしたい
いろんなことをかんがえて
いろんなことがわかったつもりでいても
そんなきもちがあったら
まだ
しねない
くやしいとか
2018-03-07

伊豆 富戸港
自分がしてしまったことで
今思うと後悔することを
ひとつずつ
やり直して
つぶしていけると
いいのだけど
もし
生まれ変われたら
そんな思い出を
ひとつずつ
消していきたい
もし生まれ変われたら
2019-5-18

京都の路地裏
じいさんはしゃべった
ほかのことは
何も見えないみたいに
何も聞こえないみたいに
夢中で相手の言葉を
頭の中でころがすと
自分の口から言葉をあふれさせ
大きなウィンドウから見える
表の人通りも
快く響いている音楽も
じいさんには関係なかった
じいさんはしゃべった
夢中でしゃべった
日が落ちて
外が暗くなり
店の中が寂しくなっても
じいさんには関係なかった
午後の喫茶店
1983.03.12

草津から志賀高原へ
SUZUKI GSX400F
そしてぼくは
今日のことを
10年前のことのように思った
長い年月をかけて咀嚼され
それなりに肯定されたことのように
今日のことをふりかえった
あしたは
あしたじゃなくて
10年後のあしたのように
そうすれば
待つということも
できるような気がする
10年たったら
1982-11-18

茨木市
時には
鼻でふんと笑いながら
指をパキッと鳴らしたくなる
腕を高く掲げて
頭の上で
指をパキッと鳴らすと
いやなことが
まるで砕け散るから
楽しすぎる思い出も
時には
鼻でふんと笑いながら
指を高らかに
パキッと鳴らしたくなる
つらい思いが
まるで砕け散るから
指を鳴らす
1971.08.09

鎌 倉市大船
コーナーにさしかかったとき
ふと
あいつの顔が
浮かんだ
軽くブレーキ
車体を傾けて
そのまま加速
そうやって
あいつのことも
ファストアウト
Slow In Fast Out
1982-07-27
aa_R.jpg)
伊豆石廊崎付近
過去にはお別れ
さようなら
懐かしがるのはたいがいにして
過去にはお別れ
さようなら
しみじみした感慨に浸ることも
あるかもしれないけど
過去にはお別れ
さようなら
胸をかきむしりたくなることも
あるかもしれないけど
そんなときはなおさら
過去にはお別れ
さようなら
過去にはお別れさようなら
1971-08-08
僕がいつか死ぬときは
娘がもう
おばさんになって
僕が死んでも
あまり悲しくないような
そんな時であってほしい
僕がいつか死ぬときは
妻があまり悲しまないように
飽き飽きするほど長く
一緒に暮らした果てであってほしい
二人がどんなに悲しくたって
なぐさめてやることも
たすけてやることも
もうできないのだから
僕がいつか死ぬときは
ふたりがあまり
悲しまない
そんな
最果てであってほしい
僕がいつか死ぬときは
2003-08-26

西国街道(茨木市)
なんだか急にそう思ったんだ
あいつはかわいかったって
照明に照らされた作業台を
まぶしく眺めながら
なんだか急に
60になっても会ってくれる?って
あいつは無邪気な顔をして
そう聞いたけど
笑っただけで
なんにも真剣に考えたくなかった
そうやって考えずにいれば
簡単だった
だけど
疲れきって
照明に照らされた作業台を
まぶしく眺めながら
なんだか急にそう思ったんだ
あいつはかわいかったって
なんだか急に
1972-08-12

横 浜市 野庭
いつかの夏と同じように
太陽が肌に痛く射し
それでなにかを思い出しそうだったけれど
何年も何十年も
同じような夏を繰り返してきて
それがいったいいつの夏のことだか
日に焼けた肌に
何年も重ねられた思い出は
皮がむけるようにはがれ
残された映像はかけらとなり
思い出と夢が混じりあって
貼りついている
肌を焼く陽射しに
何かを思い出しそうだったけれど
思い出が多すぎて
探しているうちに
かけらばかり
こぼれ落ちる
肌を焼く陽射しに
2020-8-24~25

茨 木市 安威川
そうやって
歩きながら
笑って
横顔を
眺めていた
いつだったか昔
1971-10-17

南房総 竹岡漁港
たそがれの
街灯に照らされた階段に
うずくまる蝉は
近づいても逃げず
飛べないわけも知らず
死ぬことも知らず
何も気にせず
満ち足りて
くつろいでいる
9月の蝉
2020-09-07
