Suga Toshiaki Gallery
菅俊明 ギャラリー
南の国で
その国を訪れたのは初めてだった。私は取引のため、首都に、かれこれ一週間も滞在していたが、ようやく仕事も片付き、取引先にも勧められたので、二~三日休みをとって、この国を見物することにした。ここにいるあいだ、私は時々、古い友人のことを思い出していた。彼は同じ職場の同僚で、11年前、やはり仕事でこの国を訪れて、任務が終わったあと行方がわからなくなっていた。
見物には取引先の男が付き合ってくれた。この国の人だった。五月だったけど、南の国らしくひどく暑くて、私も彼もTシャツにGパンという格好で、あちこち歩き回った。最初の日は首都を回り、二日目から、車にガタガタと揺られながら地方の町や村を回った。三日目に、小さな市に着いた。特に見るべきものもない町で、博物館を覗いて通り過ぎる予定だった。
博物館は冷房もなく暑かった。窓は開け放たれていて、博物館にしては無神経で無用心だったが、それほど重要なものが陳列してあるとも思えなかった。古い矢尻や土器や、まだ首狩りの風習があったころの首のミイラや、大きな貝殻などが陳列してあったが、それらはつい最近まで、彼らの日常の風物だったそうだ。同行の男は、丁寧にいろいろと説明してくれたが、私は少々疲れていて、もういい加減で帰りたい気分になっていた。彼は首のミイラの前で、首狩りの風習について説明してくれた。それは10年ほど前まで続いていたそうだ。そこには五つほど、気味悪く小さく縮んだ首が並んでいた。ぼんやり眺めながら、私はまた、あの古い友人のことを思い出していた。
はっとした。並んでいる首のひとつが、その友人にそっくりだった。目を閉じて、ひどく小さくなって、ゆがんでいたけれど、見れば見るほど彼に似ていた。確信はなかったし、なんの証拠もなかった。
私は、その首の前で釘付けになった。
(1986年8月29日)